アメリカの安全法規
アメリカ合衆国に製品を出荷するために必要な製品安全に関する法律について、ご紹介致します。
製品安全制度の前に、アメリカ合衆国の法体系から順を追って説明していきたいと思います。
少し長くなりますが、お付き合いください。
【目次】
2-1. 連邦法 United States Code (Title1~54)
2-2. 連邦規則 Code of Federal Regulations (Title1~50)
4. OSHA (Occupational Safety and Health Administration) 労働安全衛生管理局
4-1. 労働安全衛生法 29 USC Chapter 15 (Occupational Safety and Health)
4-2. 労働安全衛生規則 29 CFR Part 1910 (Occupational Safety and Health Standards)
1. アメリカ(米国)の製品安全に関する法律
アメリカの製品安全については、欧州(EU)のようにCEマーキングのような制度ではなく、連邦法や州法を基にして定められた製品安全規制に従うことになります。
アメリカ合衆国とは、50の州で構成されている国で、その50の各州が独自の憲法、法律を制定し、運用できるようになっております。
各州で行政、立法、司法機関を持っているため、同じアメリカ国内ですが、州ごとにある程度の独立性がありますので、「連邦法」と「州法」の2元性を持っています。
連邦法と州法で同じような内容になったり、矛盾が生じるような場合は、合衆国憲法や連邦法の方が優先される仕組みになっています。
具体的な製品法令の説明に入る前に、まずは、アメリカの法体系について説明していきたいと思います。
2. アメリカの法体系
まず最初に、アメリカ合衆国の最高法規に位置づけられるのは「アメリカ合衆国憲法」です。
日本と同じく、法律全ての考え方や思想の基本となる憲法の下に法律を定めております。
そして、そのアメリカ合衆国憲法の下に制定されているのが、「連邦法(United States Code)」となります。
連邦法は、"USC"と呼ばれ、各州が定めた州憲法、州法等の上位法令に当たります。
2-1. 連邦法 United States Code (Title1~54)
連邦法USCは、Title1~54で構成されています。
Title | United States Code | Title | United States Code |
---|---|---|---|
1 | 一般規定 | 28 | 司法及び司法手続き |
2 | 議会 | 29 | 労働 |
3 | 大統領 | 30 | 鉱物資源及び鉱業 |
4 | 旗、紋章、政府の議席、及び州 | 31 | 資金及び財政 |
5 | 政府組織と職員 | 32 | 州兵 |
6 | 国内治安 | 33 | 航行及び航行可能水域 |
7 | 農業 | 34 | 犯罪管理及び法の執行 |
8 | 外国人及び国籍 | 35 | 特許 |
9 | 仲裁 | 36 | 愛国社会及び遵守 |
10 | 軍隊 | 37 | 武官組織の給与及び手当て |
11 | 倒産 | 38 | 退役軍人給付 |
12 | 銀行及び銀行業 | 39 | 郵便 |
13 | 国勢調査 | 40 | 公共建物、資産及び作品 |
14 | 沿岸警備隊 | 41 | 公共契約 |
15 | 商取引 | 42 | 公衆衛生及び福祉 |
16 | 保全 | 43 | 公有地 |
17 | 著作権 | 44 | 政府刊行物及び公文書 |
18 | 犯罪及び刑事手続き | 45 | 鉄道 |
19 | 関税 | 46 | 船舶 |
20 | 教育 | 47 | 電気通信 |
21 | 食品及び薬品 | 48 | 領土及び島の所有 |
22 | 外交関係及び通商 | 49 | 輸送 |
23 | 高速道路 | 50 | 戦争及び国防 |
24 | 病院及び精神病院 | 51 | 国家及び商業宇宙計画 |
25 | インディアン | 52 | 投票及び選挙 |
26 | 内国歳入法 | 53 | ー |
27 | 酒類 | 54 | 国立公園サービス及び関連プログラム |
そして、この1~54から成る連邦法"USC"を実施するための法令として「連邦規則CFR(Code of Federal Regulations)」が定められ、行政法として位置づけられています。
2-2. 連邦規則 Code of Federal Regulations (Title1~50)
連邦規則CFRは、Title1~50で構成されています。
Title | Code of Federal Regulations | Title | Code of Federal Regulations |
---|---|---|---|
1 | 一般規定 | 26 | 内国歳入(財務規則) |
2 | 承諾及び合意 | 27 | アルコール、タバコ製品及び銃器 |
3 | 大統領 | 28 | 司法行政 |
4 | アカウント | 29 | 労働 |
5 | 管理者 | 30 | 鉱物資源 |
6 | 国内セキュリティ | 31 | 資金及び財政 |
7 | 農業 | 32 | 国防 |
8 | 外国人及び国籍 | 33 | 航行及び航行可能水域 |
9 | 動物及び動物製品 | 34 | 教育 |
10 | エネルギー | 35 | -(旧パナマ運河) |
11 | 連邦選挙 | 36 | 公園、森林、公共の財産 |
12 | 銀行及び銀行業 | 37 | 特許、商標及び著作権 |
13 | ビジネスクレジット及び支援 | 38 | 年金、ボーナス及び退役軍人の救済 |
14 | 航空及び宇宙(連邦航空規則) | 39 | 郵便 |
15 | 商取引及び外国貿易 | 40 | 環境保護 |
16 | 商慣行 | 41 | 公共契約及び財産管理 |
17 | 商品及び証券取引所 | 42 | 公衆衛生 |
18 | 電力及び水資源の保護 | 43 | 公有地:国内 |
19 | 関税 | 44 | 緊急事態の管理及び支援 |
20 | 職員の福利厚生 | 45 | 公共福祉 |
21 | 食品及び薬品 | 46 | 船舶 |
22 | 外交関係 | 47 | 電気通信 |
23 | 高速道路 | 48 | 連邦調達規制システム |
24 | 住宅及び都市開発 | 49 | 輸送 |
25 | インディアン | 50 | 野生生物と水産 |
1~50から構成された連邦規則CFRには、詳細な技術基準が記載されています。
製品安全に法律としては、労働安全衛生法が定められている連邦法「USC29」や、連邦規則「CFR29」を基に、労働安全衛生管理局OSHAが取り締まっております。
EMCに関する法律としては、電気通信にかかる法令として連邦法「USC47」や、連邦規則「CFR47」を基に、連邦通信委員会FCCが取り締まっております。
また、これらの連邦規則CFRを補うための「規格」が、第三者評価機関、工業会などで制定されています。
ここまでをまとめてみると、アメリカ合衆国憲法 → 連邦法「USC(1~54)」 → USCを行うための連邦規則「CFR(1~50)」 → 連邦規則CFRを補うための「規格」があるという関係です。
3. アメリカの三権分立
それでは、これらの法律は誰が制定し、どのように運用されるのかについても簡単に触れておきたいと思います。
アメリカも日本と同じく「立法府」、「行政府」、「司法府」の三権分立を採っており、法律の実行は、行政府が行います。
アメリカの行政府は、15の省(国防総省、エネルギー省、内務省、・・・)と、独立した局や委員会で構成されます。
有名どころでは、航空宇宙局(NASA)、食品医薬品局(FDA)、連邦通信委員会(FCC)、労働省DOLの職業安全衛生委員会(OSHA)・・・というところです。
このような背景があることを踏まえて、アメリカの製品安全について関連する部分を確認していきましょう。
4. OSHA (Occupational Safety and Health Administration) 労働安全衛生管理局
まず、アメリカの製品安全としては、「OSHA」による要求が関連してきます。
OSHAは、1970年に制定された労働安全衛生法という法律を実行するための機関として、職場の労働安全や衛生環境の整備のために、労働省DOL(Department Of Labor)の下に設立された行政府機関です。
労働安全衛生法は、「29 U.S. Code Chapter15 (Occupational Safety and Health) §651~§678」で定められております。
この労働安全衛生法「29 USC 15 §651-§678」は、アメリカ国内の全ての事業者(雇用主)に広く適用され、一般電気製品や産業機械などを扱う職場では、安全性を満たす製品を使用すること、安全で衛生的な職場環境を作るための責務を定めています。
4-1. 労働安全衛生法 29 USC Chapter 15 (Occupational Safety and Health)
労働安全衛生法「29 USC 15」は、下記のように構成されております。
セクション | タイトル |
---|---|
651 | 議会の調査結果の声明及び目的と方針の宣言 |
652 | 定義 |
653 | 地理的適用性、司法の執行、既存規格への適用性、連邦法の重複と整合について議会への報告、労働者災害補償法またはコモンローまたは法定権利、義務、雇用者の責任、影響を受けない従業員 |
654 | 雇用者と従業員の義務 |
655 | 規格 |
656 | 管理 |
657 | 検査、調査、記録管理 |
658 | 引用 |
659 | 施行手順 |
660 | 司法審査 |
661 | 労働安全衛生審査委員会 |
662 | 差止命令 |
663 | 民事訴訟における代理人 |
664 | 企業秘密の開示と保護命令 |
665 | バリエーション、許容、要求規定の免除、手順、期間 |
666 | 民事及び刑事罰 |
667 | 州の管轄と計画 |
668 | 連邦機関のプログラム |
669 669a |
研究及び関連活動 労働者の健康と安全に関する研究の拡大 |
670 | トレーニング及び従業員の教育 |
671 671a |
国立労働安全衛生研究所 労働者の家族の保護 |
672 | 州への助成金 |
673 | 統計 |
674 | 助成金受給者の監査、記録の維持、記録内容、閲覧権限など |
675 | 労働長官及び保険福祉長官による年次報告書とその内容 |
676 | 省略 |
677 | 分離性 |
678 | 予算枠の承認 |
タイトルをご覧になって頂けるとわかると思いますが、この労働安全衛生法「29 USC 15 §651-§678」の中では、具体的な技術基準は定めておりません。
詳細については、この労働安全衛生法「29 USC 15 §651-§678」に基づき定められた、労働安全衛生規則「29 CFR Part 1910」を参照することになります。
4-2. 労働安全衛生規則 29 CFR Part 1910 (Occupational Safety and Health Standards)
連邦規則CFR Title29は、Volume 1~9で構成されており、Volume 1はSubtitleA(0-99)とVolume 2はSubtitleB(100-4999)があります。
その中で規定されている1910項は、サブパートA~Zで構成されており、製品構造に対する要求が記載されています。
サブパート | タイトル |
---|---|
A | 一般 (目的、範囲、定義、規格の適用など) |
B | 連邦基準の適用 (目的、範囲など) |
C | ー |
D | 歩行、作業面 (はしご、階段、足場、落下防止など) |
E | 避難ルートと緊急時の計画 (避難経路の設計、建設の要求、緊急時行動計画、防火計画など) |
F | 電動式プラットフォーム、昇降リフト、車載作業プラットフォーム |
G | 労働安全衛生、環境の管理 (換気、騒音に対する曝露、非電離放射など) |
H | 危険物 (圧縮ガス、アセチレン、水素、酸素、可燃性の液体、危険化学物質のプロセス安全管理など) |
I | 個人保護具 (目、顔、頭部、呼吸、手足の保護、電気保護具、個人用転倒防止システムなど) |
J | 一般的環境管理 (衛生、標識、カラーコード、危険エネルギーの制御など) |
K | 医療、応急処置 |
L | 防火 (消火器、スプリンクラー、消火システム、火災検知システムなど) |
M | 圧縮ガス、圧縮空気機器 (エア機器) |
N | マテリアルハンドリングと保管 (材料の取扱いなど) |
O | 機械、機械の保護 (全ての機械、木工機械、研削機械、プレス機械、鍛造機械など) |
P | 手持ち電動工具 |
Q | 溶接、切断、ろう付け (酸素燃料ガス溶接、アーク溶接、抵抗溶接、切断など) |
R | 特定の産業機械 (パルプ製紙工場、ベーカリー機器、洗濯機械、電気通信、発電・送電など) |
S | 電気 (配線設計、部品、作業教育、メンテナンスなど) |
T | 潜水作業 (潜水チームの資格、スキューバダイビング、手順、記録など) |
U | ー |
V | ー |
W | ー |
X | ー |
Y | ー |
Z | 有害物質 (大気汚染物質、アスベスト、発がん性物質、塩化ビニル、鉛、カドミウム、電離放射など) |
このように、アメリカの事業者を対象として、建物や機械設備の安全や職場の衛生環境などを定めた労働安全衛生規則「29 CFR Part 1910」では、製品に使用される材料、設計、使用、メンテナンスや廃棄に至るまで、製品のライフサイクル全てに関連する項目がサブパート毎に扱われております。
5. NRTL認証制度とフィールドラベル制度
また、OSHAの代表的な権限として、「29 CFR Part 1910 SubpartA §1910.7」に基づき、試験機関を認定することができるようになっています。
このOSHAにより認定された機関は、通称「NRTL」と呼ばれています。
NRTLとは、Nationally Recognized Testing Laboratoryの頭文字を取ったものであり、OSHAにより認定された評価機関です。
現在のNRTLの一覧は、こちらで確認できます。
電気機器や機械設備の安全については、「29 CFR Part 1910 Subpart S §1910.399 本サブパートに適用するための定義」として、下記3つのケースが認められております。
5-1. NRTL認証制度
(1) §1910.7に従い承認されたNRTLによる承認、認証、リスト、ラベルの貼付け、またはその他の方法を用いて安全であると判断された場合
製品数が多く出回るような大衆向け製品である場合は、(1)のNRTLによる認証審査を受けて、「NRTL認証ラベル」を貼り付けることになります。
5-2. フィールドラベル制度
(2) 州や地方自治体の労働安全衛生検査官AHJ(Authority Having Jurisdiction)による米国電気設備規定NEC(National Electrical Code)を用いた検査を行っている場合
「労働安全衛生検査官AHJ(Authority Having Jurisdiction)」とは、その機械や材料、設置等にかかる連邦法や規格要求に対して責任を持つ自治体の労働安全衛生を管轄する組織、事務所、個人であるとされております。
(3) 特定顧客向けに設計、製造、及び使用されることを意図した機器、及び関連設備は、労働安全衛生検査官AHJによる検査に備えて、製造者が意図する使用と安全の確保に対する試験データを根拠として保持している場合
出荷される製品数が少ない一般産業向け機械の場合は、(2)や(3)のように現場に据え付けられた機械に対してAHJによる審査を受け、「フィールドラベル」を貼り付けることになります。
これらをまとめますと、下記のようになります。
お客様の製品が(1)~(3)のどれに該当するかで、認証形態が変わってきますが、大量生産品の場合は(1)、出荷数が少ない一品一様のような機械は(2)、(3)による方法が用いられています。
このように、アメリカにおける製品安全としては、製造者ではなく、アメリカの事業者に対して、労働安全衛生に対する責任が課せられております。
製造者側よりもそれを使用する事業者側が安全に対して責任を持つことを重視している形になりますが、アメリカは訴訟が多いことでも知られているとおり、製品設計による欠陥で事故が生じた場合、事業者側の安全衛生に対する対応はもちろん、製造者側に対しても製品の安全性についても問われることになるでしょう。
アメリカ、カナダの法律は、コモンローというイギリス式を採用した法体系です。
日本での民事裁判では、民法を基に裁判が進められ、過去の判例は参考として扱われますが、アメリカやカナダの法律は、過去の判例を基にして裁判が行われますので、製造者側でも安全性については、しっかり取り組んでおくことをお勧め致します。
6. アメリカの製品安全規格に対応するためには
イーエムテクノロジーでは、アメリカ、カナダの法規制に対応するための技術コンサルティングサービスを行っております。
NFPA70(NEC)、NFPA79、UL508Aなどの規格への適合性評価、必要となる製品対策など、お客様の製品が規格に適合できるように、具体的なアドバイスを行っております。
お気軽にご相談いただければと思います。
関連ページ「NFPA79,UL508A,CSA C22.1,SPE-1000等の適合支援」
関連ページ「フィールドラベル NFPA790/NFPA791」
関連ページ「FCC Part15, FCC Part18 測定サービス」